主な研究内容

研究プロジェクト

がんは多彩な疾患で、同一臓器・同一病期であってもその病態は様々です。
各個人に発生するがんの個性を適確に捉えることができれば、最適な治療戦略や効果的な予防法を個別に提供できるかもしれません。

われわれは、がんの2次予防として
「効果的ながん検診やがんの早期診断を可能にするバイオマーカー」の開発を進めています。
さらに、適時・最適医療を提供するためのバイオマーカー開発や創薬標的候補の同定も行っています。

基礎研究のみならず、同定された医療シーズに対して、日本対がん協会や国内の大学・研究機関、米国国立がん研究センター(NCI)、
ハイデルベルグ大学、ドイツがん研究センター(DKFZ)と共に社会実装に積極的に取り組んでいます。
基礎研究者・臨床医・地域保健機関が緊密に連携して、臨床検体に真摯に向き合いながら「オリジナル医療の創生」を目指して研究を行っています。

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がん2次予防(がん検診)に有用なバイオマーカー開発と社会実装

難治がん死亡率の低減には、「効果的ながん検診による早期がんの拾い上げ(がん2次予防)」が重要です。膵がんは予後不良な難治がんです。

われわれは、血液のプロテオーム解析から膵がんや膵がんリスク集団で変化する「アポリポプロテインA2 2量体のC末端アミノ酸の切断異常(apolipoprotein A2-isofomrs. apoA2-i)」を見出しました。

ApoA2-iは、手術可能な膵がんだけでなく膵がんの前がん病変と考えられる膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や膵がんリスク疾患である慢性膵炎にも反応します。
負担が少ない血液検査で膵がんや前がん病変・リスク疾患(ハイリスク集団)を一般集団から囲い込み、ハイリスク集団に精密画像検査をすることで治癒切除可能な膵がんを発見する効率のよい検診法を開発したいと思います。

膵がん検診の効率化を目指した
血液バイオマーカーの開発

北海道検診

北海道検診

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がん転移活性を予測し、再発を予防するバイオマーカーの開発

がん治療を成功させるためには再発の予防が重要です。手術により完全切除されたように見えても、眼に見えない転移巣が残存した場合には、術後再発の危険が高まります。一部のがんでは、術後再発予防のために補助化学療法が行われます。個別腫瘍が持つ転移活性を正確に評価して、補助化学療法実施するのは合理的だと思います。

われわれの研究室では、がんの転移に関与する浸潤突起の形成に必須なアクチン束状化タンパク質ACTN4を世界に先駆けて同定いたしました。

ACTN4遺伝子は、転移活性が高い症例で遺伝子増幅が確認されていて、同遺伝子増幅を確認するためのFISH検査キットの作成をしています。がんの再発予防や適切な補助化学療法実施のバイオマーカーとして開発を進めています。
またACTN4の機能阻害は、がんの浸潤や転移活性を抑えます。ACTN4機能阻害による転移阻止を目指した治療法の開発にも挑戦しています。

転移予測バイオマーカー

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「早期診断バイオマーカー検証プラットフォーム(P-EBED)」による
バイオマーカーの迅速検証と実用化支援

がんの早期発見や治療モニタリングのために、血液バイオマーカーの重要性が増しています。ゲノム・プロテオーム・メタボロームなどのオミクス解析技術の進歩とともに多くのバイオマーカー候補が報告されてきていて、それら候補の臨床現場への迅速導入が叫ばれて久しいです。
バイオマーカー候補が実際の臨床現場で体外診断薬(in vitro diagnostics、IVD)として利用されるためには、様々なハードルが存在します。バイオマーカー候補の感度・特異度等を薬機法に従い客観的に検証しPMDAからIVD認証を得るための臨床性能試験が必須です。
米国では、早期診断バイオマーカーの有効性を評価しIVD承認を支援する組織として米国がん研究所(NCI)早期診断研究ネットワーク(EDRN)がありますが、日本ではその臨床性能を評価する過程がボトルネックになっています。 

世界に伍して早期診断バイオマーカーの臨床開発を迅速に進めるために、「AMED 次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)」の支援を受け、日本医科大学、国立がん研究センター、兵庫医大などの全国10の医療機関が連携し、頭頸がん、肺がん、胃がん、膵がん、大腸がん患者などの血清・血漿リファレンスサンプルセットの集積を始めました。

早期診断バイオマーカーのIVD承認の迅速化を目指して、レギュラトリーサイエンス、オミクス解析、生物統計の専門家や、臨床医がタック組み、「早期診断バイオマーカー検証プラットフォーム」を提供します。バイオマーカーの探索から臨床性能の確認、薬事承認申請をワンストップで実施します。NCI EDRNとも緊密に連携しながら、国内・海外で開発されたバイオマーカー社会実装を後押しします。

早期診断バイオマーカー検証
プラットフォーム

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末梢循環腫瘍細胞(CTCs)や循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いた
がん病態診断マーカーの探索

がんは自身の生存をかけて治療圧力に抵抗し、その個性を進化させます。最適治療の確立には、時々刻々変化する腫瘍の個性を適確に捉え、頻回の検査にも患者さんが耐えうる負担の少ない検査法の確立が急務です。血液中に循環する腫瘍細胞(circulating tumor cells, CTCs)や腫瘍から漏れ出す腫瘍DNA(ctDNA)から腫瘍個性を判断できれば、適切なタイミングで最適な医療を提供できる可能性が高いです。
われわれの研究室では、理化学研究所や国立シンガポール大学と共にCTC1細胞から代謝物を一斉解析する技術を開発しています。また、CTCsやctDNAの遺伝子変異を次世代シーケンサーで解析しています。特定な治療効果と相関する代謝物プロファイルや遺伝子変異を見つけ出すことで、新しいバイオマーカーを開発したいと考えています。