メンバー

内藤 寛 (Yutaka Naito PhD)

<研究内容>

【がん微小環境の不均一性を制御する細胞間相互作用のメカニズム解明】

がんの組織の中には、がん細胞だけではなく、炎症細胞や線維芽細胞、血管内皮細胞といった様々な種類の細胞が存在しています。こうしたがん組織内の細胞は、増殖因子などの液性因子や、物理的な接触を介して互いに相互作用することで、正常な組織とは異なる特殊な“がん微小環境”を生み出し、がん細胞の増殖や転移、治療抵抗性などに大きな影響を与えていることが分かってきました。

 

“がん微小環境”中の細胞群が、どのようなシグナルを介して、互いに影響を与え合っているのか?そして、がんの進展に関わっているのか?その細胞の“メッセージ”の伝達手段、内容を詳しく解析することで、新しいがんの治療標的・診断方法を同定することを目標に、様々な研究を展開しています。

 

I: がん進展における癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblasts, CAFs)の機能とその不均一性制御のメカニズム解明

私たちは、がん微小環境中の線維芽細胞、通称CAFと呼ばれる細胞集団に着目して研究を行っています。線維芽細胞は本来、創傷治癒や代謝など、生体内のホメオスタシスの維持に関わる重要な細胞です。一方で、がん細胞の浸潤や転移、治療抵抗性にも大きく関わっています(Sahai E et al., Nat Rev Cancer, 2020)。これまでの研究成果から、がん細胞からの特定のシグナルによって、性質の異なる不均一なCAFのサブタイプが生み出されていることが分かってきました(関連業績1、2)。このうち、特定の性質を有するCAFのサブタイプは、癌患者の予後不良と強く相関することも分かっています(関連業績2)。現在、シグナル伝達阻害剤の処理により、特定のCAFのサブタイプの発生を抑えられるかどうか、がんの新規治療標的としての有効性について、検討を続けています。

 

II: 細胞外小胞顆粒(Extracellular Vesicles, EVs)を介した細胞間クロストークの全容の理解と疾患診断マーカーへの応用

近年、エクソソームをはじめとする細胞外小胞顆粒(EVs)の実臨床での応用に期待が高まっています。その理由として、わずか数十〜数百nmほどの小さな小胞の中に、疾患細胞由来のmRNAやタンパク質などの情報伝達物質が豊富に含まれていること、生体内の体液(血液、尿、唾液など)の中に安定して存在していることが挙げられます。このEV内部に含まれている分子を詳細に解析することで、がんをはじめとする疾患の病態解明や、新規治療・診断ターゲットの探索を行っています。特に、EVの内に含まれるどのような“メッセージ”が、がん細胞と微小環境中の細胞との相互作用に重要なのかに興味を持ちながら、研究を進めています。

 

【関連業績】

1: Kogure A*, Naito Y*, Yamamoto Y, Yashiro M, Kiyono T, Yanagihara K, Hirakawa K, Ochiya T. Cancer cells with high-metastatic potential promote a glycolytic shift in activated fibroblasts. PLoS ONE. 15: e0234613, 2020. * Contributed equally to this work.

2: Naito Y, Yamamoto Y, Sakamoto N, Shimomura I, Kogure A, Kumazaki M, Yokoi A, Yashiro M, Kiyono T, Yanagihara K, Takahashi RU, Hirakawa K, Yasui W, Ochiya T. Cancer extracellular vesicles contribute to stromal heterogeneity by inducing chemokines in cancer-associated fibroblasts. Oncogene 38: 5566-5579, 2019.

3: Naito Y, Yoshioka Y, Yamamoto Y, Ochiya T. How cancer cells dictate their microenvironment: present roles of extracellular vesicles. Cell Mol Life Sci. 74: 697-713, 2017.

4: Naito Y, Sakamoto N, Oue N, Yashiro M, Sentani K, Yanagihara K, Hirakawa K, Yasui W. MicroRNA-143 regulates collagen type III expression in stromal fibroblasts of scirrhous type gastric cancer. Cancer Sci. 105: 228-35, 2014.

 

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連絡先:y-naito [at] nms.ac.jp

HP: https://researchmap.jp/y-naito_70738210